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タマの賭け〜未来家族「サザエさん」エピソード5

磯野家にはもう1人家族がいる。いや、1人ではなく1匹か…猫のタマである。タマはもうかなりの年齢になって長生きしているねと近所の人たち皆によく言われる。いまやタマには子どもがたくさん生まれて、さらにまた孫まで生まれている。とても磯野家の中をウロウロしてはいられない数になっていた。

「タマもうちと同じ大家族になったわねえ」

サザエは台所に立ちながら流しの窓越しに見えるタマの日向ぼっこ場所に身を寄せあって眠るたくさんの猫を、自分たちの家族になぞらえながら眺めるのだった。

「久しぶりの日差しに暖かそうで良いわねえ」

しかし、そんなことを思われているとはタマは知らない。なにやら気楽に生きているように思われたようだが、実はタマはとても悩んでいるのだ。家族が増えたのは良いのだが、子どもたちにネズミの捕まえ方を教えることができない。それもそのはず、いまやネズミがほとんどいないので、どうしようもない。

ネズミの飼育をしなけりゃいけないのかなとタマは思っていた。捕まえるためにネズミを育てる…これがまた難しい。磯野家に居候している身としては、ネズミを捕まえてくるだけでもサザエが大騒ぎする。なかなか難しいのだ。

「タマも不憫だなあ…」

それを見て知っていたカツオは、タマの家族が住めるところを庭に作ってあげようと考えていた。

裏庭の奥まったところにある池の真ん中の島の小さな一画にタマが自由にしてよいスペースを作るのがちょうど良いんじゃないかとカツオは考えていた。タマの通り道からも近い。少し植木を切り開いて小さな小屋を置いたりもできそうだ。

しかし最初からそれをタマが自由にして良いスペースだと言ってしまえば皆が反対するのも目に見えている。そこでカツオは父であるナミヘイの盆栽を置く場所だと説明することを思いついた。

名付けて「ナミヘイ記念花壇」である。結局は動物の健康管理をした上で衛生的の飼うための施設と言っても良いが。タマはその戦略がよく分かっていた。

タマは、そのカツオの気持ちが嬉しかった。これはぜひ叶えてもらいたいと思っていた。

「あら、父さんが?そうなの?じゃあそうしたらいいんじゃない?」

「構わないのかい?」

「うん…まあ本当は困るけれど…父さんが言ってるんだったら…老後の楽しみを奪うのか!なんて怒られちゃうかもしれないしね」

カツオはよしやった!と思った。お義父さんに確認もしないでナミヘイ記念花壇は決定したのである。もう名前を変えた方がいい。父さんに見つかったら、ワシはそんなことは言うとらん!となっても困る。タマの国記念花壇と名前を変えることにした。

「うまくいったなァ〜よかったねタマ」

カツオは我ながらうまく話が運べて良かったと褒めてあげたい気分だった。いろんな意味でスレスレな方法だけれど、でもタマとその子どもたちのことを考えてあげることは必要だ。


「カツオ!ちょっと来なさい!」

大声が鳴り響いた。カツオは背筋がビクリとした。この声はこの歳になっても緊張感が走る。

「どうしたの父さん」

「お兄ちゃん、裏庭の盆栽のスペースなんだけど父さんに頼まれて作ったって本当なの?」

「ええっ?」

カツオは驚いた。こんなに早くバレるなんて…まだ完成してないのに…

「ほ、本当だよ…」

「ワシはそんなこと言っとらん!」

「ほら。お兄ちゃんは父さんに頼まれたって言ってるじゃないの。お姉ちゃんだってさ、父さんに言われたんじゃないの?父さんに確認もしないでこんなことするの?おかしいじゃない!?」

マスオは思った。

忖度があったのでは?

その騒動を聞いていたタマがとても気を揉んでいた。自分たち猫のためにカツオが作ろうとしてくれているわけだが、普通ならサザエに断られて実現しなかっただろう。ところがカツオのおかげでなんとかなりそうなところまでいったのだ。

ところが、ワカメは納得がいかないらしい

「本当に父さんは言ってないの?お姉ちゃんがこんなこと勝手にやるわけないわ」

タマは心が苦しかった。それはちがうんだ、本当に猫にとってそのスペースは必要だったんだ。カツオはそれを、代わりにやってくれただけなんだ。そう思ってタマはみんなが話し合っている居間へと近づいた。ワカメの発言にナミヘイが机を叩きバカモンと大声で叫ぶ声と振動が伝わって来た。タマは驚いて後ろにのけぞった。無理だ…

いや、ダメだここで怯んじゃいけない。勇気を出して言わなくちゃ。これはタマがお願いしたことなんです。ナミヘイさんは関係ない。カツオさんが悪いわけでもない。それを伝えなきゃ!

タマは勇気を出して話し合いの行われていた居間へと入っていった。皆がタマの方を見た。タマは誠心誠意説明しようと話し始めた。

「ニャー」

いくら説明しても、誰も聞く耳を持たぬのであった。これをタマの無理賭け問題という。

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