有馬の湯で。想定内(ホリエモンで有名になった大事な経営資質)

有馬温泉の御所坊に来ています。ゆっくりと時間を過ごせるので、いろいろと思い出話を繰り広げたいと思います。

あれは確か、フジテレビを買収しようとしていたライブドアの、ホリエモンこと堀江貴文さんが記者会見などで多用した言葉でしたね、「想定内」という言葉…単語…表現。

あの頃、まだ若かりし20代だった知人が「あれって、あと乗せサクサクだよね〜」って言ってた。

私は「え?違うよ?」と丁寧に説明した覚えがあります。


数年前にまだ30代の弁護士の先生とお話しすることがありました。

士業(サムライ業)と呼ばれて国家資格と弁護士法という既得権益に守られた職業人です。その制度的な問題を抱えている一方で、品質が低い弁護士を大量に生んでしまう制度改革も社会的な課題となっていますね。

そんな若い弁護士(彼は優秀な部類の人ですが)と話した時のことです。

「企業の係争事件に関わるとクライアントの経営者とお話しする機会があって、考え方の違いに眼を覚ますことが多いです」

「というと?」

「弁護士事務所では、お歴々の先生が威厳をもっておられてお話しすると事実の積み重ねで証明や論理構成を考えることが常識です」

「それはそうでしょう、法律家ですからね」

「でも、経営者の皆さんは常に仮定の質問をされるのです」

「仮定?」

「はい、もしこういう場合は…あるいはこういう時はどう対応しましょうか…と常におっしゃいます」

ああ、なるほどと思いました。

「それは、仮説検証型の思考回路を持っているからですね」

経営者は資本家から預かった資金を投資して利潤を生む仕事。常に細心の注意を払ってリスクが最小化するように考える必要があります。表向きにはイケイケどんどんな振る舞いをして、社員からは大丈夫だろうかと思わせるぐらいに能天気に見えるのですが、実際は違います。

成功した経営者は絶対に違います。断言して良い。

種類的には、論理的に緻密に考え尽くす経営者もいれば、天性のカンでもってその緻密な仮説検証が出来るほどに身体で覚えた経営者もおられます。タイプは様々ですが。

いずれにせよ、リスクを最小化してリターンを最大化することが経営者に必要な資質なのです。

「経営者は事実を知ってから行動を起こしていては、リスクをコントロールできませんからね」

そう言うと、若き弁護士先生は半分くらいわからない顔付きで聞き返してきました。

「そのリスクというのは未来に起こりうる事故という意味ですか?」

「そうですね、そういう意味でも間違いではありません。交通事故に置き換えて説明しましょう」

「交通事故に?」

「はい、先生は運転免許証をお持ちですよね?」

「はい」

「あの、かったるい免許更新時に危険予知という言葉を何度も聞きませんか?あれのことですよ」

「ああ、子どもが飛び出してくるかもしれない、前の車が急にとまるかもしれない、っていう危険を予知するという話ですね?」

「そうです。危険が英語でリスク、予知がプレディクションですが、それを回避するために車を操縦…つまりコントロールするという考え方ですね」

「なるほど、それがリスクコントロールですか。確かに車の運転ではそれが約束事です」

「では先生、逆に質問ですが、運転手は何故そう危険予知するのですか?」

「そりゃあ事故に会いたくないからでしょう。莫大な損害賠償どころか、他人の命を危険に晒して取り返しのつかないことも起きると…ああ!そういうことですか?」

「そうです。会社を運転している経営者は、社員の雇用も守り投資家の資本も守らねばなりません。失くしてしまえば取り返しがつきません。一方で、実績の無い誰もやらない事に挑戦してパイオニアの利益を求めて経営しているのです」

「パイオニアの利益?」

「はい、開拓者の利益とも言います。誰かの歩いた後を歩くと果実は少ないですが、開拓者は殆どの果実を独り占めできるでしょう?あれです」

「なるほど。リスクコントロールして最小化し、パイオニアの利益を求めて最大化するというのが、経営者の仕事なのですね」

「はい。その資質が無ければ、経営は出来るはずがありません」

そんなの、やってみないとわからない…という言葉の裏には、一か八かの賭けがあるのです。そのような無謀な賭けに出る経営者はいません。というか、そんな経営者はいずれ淘汰されていなくなるのです。

「ちょっと昔に、ホリエモンの想定内という発言が流行しましたよね?」

「はい、覚えています。強がり言ってるのかなと当時は思いましたが」

「いいえ、違います。彼は本当に想定内だったはずです。経営者としてそれぐらいのこと、考えていて当たり前なのです。最後の最後にSBIがホワイトナイトといって乗り出して来た時に、初めて彼は『想定外だ』と言いました。孫さんに後ろから刺されるとは思わなかったのでしょうね。それまでは全て想定内だったはずです」

「しかし、そんなに想定内にしておくことは、考えるだけ無駄ということもありますよね?」

「ええ、そういう意見もありますが、それは間違いです」

「え?」

「それは、考えるのが疲れるとか面倒くさい人の言い訳に過ぎません。考えることになんらコストはかからない。無駄になりようがありません。むしろこの考える経験は訓練であり、必ず仮説検証型の思考能力を高めます。つまり、人間の脳が進化するのです。自分の成長につながるというわけです。これのどこが無駄でしょう?」

「まったくそうですね。無駄だという言い訳はその訓練の辛さから逃げているだけなのか…」


有馬温泉の湯船につかりながら、懐かしい話を思い出してしまいました。

キャンピングカーの運転も車体が大きいだけにより繊細な危険予知が必要ですよね。

安全第一でいきましょう!