吾輩は犬(イヌ)である。名前はまだ無い。
どこで生れたかとんと見当がつかぬ。
何でも薄暗いじめじめした所でワンワン泣いていた事だけは記憶している。
吾輩はここで始めて人間というものを見た。
しかもあとで聞くとそれはキャンパーという人間中で一番獰悪な種族であったそうだ。
このキャンパーというのは時々我々を高原に連れ出し、呑気に放し飼いにして、鷲や鷹に狙われるという話である。しかしその当時は何という考もなかったから別段恐しいとも思わなかった。
ただ彼女の掌に載せられてスーと持ち上げられ、何だか六角形のサークルに入れようとされた。
地面の上で少し落ちついてキャンパーの顔を見たのがいわゆる人間というものの見始であろう。
その六角形が「ペットサークル」というものだったとようやく最近になって知った。
この六角形のペットサークルでしばらくはよい心持に坐っておったが、しばらくすると非常な風力でキャタピラのように飛ばされ始めた。
ペットサークルが転がるのか自分だけが転がっているのか分らないが無暗に眼が廻る。胸が悪くなる。
到底助からないと思っていると、どさりと音がして眼から火が出た。それまでは記憶しているがあとは何の事やらいくら考え出そうとしても分らない。
呑気と見える犬々も、心の底を叩いて見ると、どこか悲しい音がする。
こんなのもあるよ
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