「ちょっといいかい?あのねえ、いまボクたちは軽井沢に向かっているわけだけどもォ」
「うん?そうだね…なんか口調がいつもと違うわね」
「この北陸自動車道をまっすぐ行けば、上越ジャンクションを曲がって軽井沢へと向かうわけ」
「ん?なんだい?キミはフジムラくんの真似かい?」
「で、さあ、今はまだ福井県を走っているわけだけどもォ、次のパーキングエリアはハイウェイオアシスなんだ」
「(ピーン!)あ、そうかそうか。」
こういうところで、車内で小芝居を始めるというスイッチが入るわけです。
「いいかい、一度しか言わないよ。このハイウェイオアシスにはなんと松任海浜公園があってそこに温泉があるんだ」
「あーそうなのかい」
「旅の疲れを癒すには何が一番いいんだい?」
「そりゃあ温泉だ」
「そうだね」
「だけど、軽井沢には今日の午後には到着しないといけないんだぞ」
「そうだね。だから温泉に寄ってる時間はないぞって言ってるわけ」
「だろ?じゃあまっすぐに上越ジャンクションを曲がって軽井沢へ行くんだ」
「いいかい、確認しておくけどもボクは温泉に行こうなんて一言も言ってやしないぞ」
「もちろんだ」
「あとは、キミの判断だ」
「もちろん、軽井沢へ直行しないと。アウトレットで買い物をしたいんだから」
「あ、いま徳光パーキングエリアの看板があったね」
「もう一度確認だけども、このパーキングエリアに入れば温泉があるんだね」
「ああ、その通りだ」
温泉のあるハイウェイオアシスに向かう時には必ずこの小芝居をしてから入るという掟が、この美しい国 日本にはあります。
最近ではハイウェイオアシスが日本中にたくさんあって、ここ北陸自動車道の徳光パーキングエリアでは、松任海浜温泉に入ることができるんです。
ここの泉質は塩味のするナトリウム塩化物泉でした。刈谷ハイウェイオアシスと同じですね。ちょっと塩味のする海水っぽい温泉。
もう、売店とか見向きもしません。下りパーキングエリアの一番奥に停めまして、一目散に歩道橋を渡って上りのパーキングエリアへ。そこから高速エリア外に出たら温泉施設があるんです。
歩道橋の上から見た高速道路。なかなか見れない光景でした。
「あんた、出産祝い持った?」
「あ、忘れた!」
「もーっ!風呂のことしか頭にないじゃん!」
小雨の中、もう一度 駐車場まで戻るハメになってしまいましたが、金沢の友人に出産祝いは無事手渡すことができました。(わざわざ取りに来てもらってゴメンね)
そして温泉はとても広くて、水でうすめたぬるめの湯船から暑い露天風呂までいろいろありました。少し鉄分が入っているのか、うすい茶色のお湯です。
地元も人もたくさん来ているようで、年配の方が多いです。
「CCZってなに?」
「何それ」
「ほら、ここに書いてある。CCZ温泉って」
「変わった名前じゃない?」
「そだね」
「…(ググる)」
「わかった?」
「えーっと、コースタル、コミュニティ、ゾーン…」
「何それ?」
「ああ、あのコースタルコミュニティゾーンでCCZね」
「だからそれ何?」
「…ハァ~!やっぱりCCZはいいお湯ねえ~」
「まだ脱衣所や!」
もうえーわ、やめさせてもらうわ。
by 中川家 礼二さん風にお読みください。